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真夜中のピアニスト
近藤嘉宏のピアニストブログ 受付終了致しました。 ロマン・デュリスインタビュー
28歳のトムは友人たちと組んで物件を転がしては荒稼ぎする不動産ブローカー。ある日トムは、ピアニストだった母のコンサートマネージャーを務めていた男と再会し、ピアニストの道を薦められる。機会を与えられた彼は、10年ぶりにピアノと向き合い、音楽への情熱を蘇らせる。――理想と夢との距離、荒々しいビジネスと穏やかさを必要とする芸術の間での心の動きを軸に、トムを取り巻く日常や物語の進行が非常に"現実的"に描かれている。"うまくいかない"ではなく、あくまで"現実的"に。主役のトムを演じたロマン・デュリスは語る。
「これは、自分が歩んできた道を変えようという物語なんです。何かを一生懸命やることによって、もしくは、何かを変えようと思うことによって、"自分は変わることができるんだ"ということを表現しているんです」
ロマン・デュリス
そう。主演はロマン・デュリス。本国フランスではすでに人気・実力ともにNo.1だ。日本でも昨年公開されスマッシュヒットとなった『スパニッシュ・アパートメント』に続き、この秋には『真夜中のピアニスト』『ルパン』、冬には『愛より強い旅』と主演作が目白押し。本作のジャック・オディアール監督も「食欲をそそられる被写体」と評す、まさに今、知っておくべき俳優のひとりだ。そんなデュリスがトム役を受けるにあたっては、オディアール監督の存在が大きかったという。
「監督の言葉は芸術作品全体に言えることですが……絵画も写真も映画も、結果を最初に頭の中で作り上げすぎると、いいものができないんです。風穴を開けて、いろいろな要素が入り込む余地を作っておくことが必要。だから監督の作品は最終的に、驚きと、偶然の要素がいっぱいの演出になっているんです」
「僕も、画家を目指して絵を描いていた頃からそう感じていましたね。"最終的にこんな絵にしよう"という描き方はしなかった。また、結果より、自分がどのぐらいのエネルギーと意思を持って表現したいのかという"過程"を大事にしていました」
ロマン・デュリス
それは、芸術だけでなく人生全般において当てはまるだろう。頭で描いたイメージに囚われすぎていてはその過程が楽しめないし、何より偶然が生み出すあらゆる可能性を潰すことになる。つまりは柔軟性が必要なのだ。デュリスの俳優としてのスタンスにも、通じるものがある。
「自分の人気や評判について、考えてないし考えないようにしています。いつも"次の仕事を頑張ろう"とシンプルな生活を送っているし、自分の欠点も十分に分かってるつもりだし、自分の立ち位置が今どのあたりかも十分自覚しているつもりです。だいいち、いつも人の評判を気にしている状況は不健全な気がしますしね」
彼の柔軟さはこういったオフィシャルでの発言だけに留まらない。ほんの数日日本にいただけでも単語はかなり覚え、インタビュー中の相槌も「そろそろ?」「どういたしまして」と次々繰り出しては場を和ませる。今回の滞在期間は10日だそうだが、「10日もいられてラッキーでしょ?配給会社がとても優しいので(笑)、スケジュールはゆったりしてます。自由に過ごせるから、東京の隅々まで散歩しようと思ってるんですよ。昨日はゴールデン街(老舗からお洒落な店まで200軒以上が軒を連ねる、新宿の古くからの飲み屋街)に行ってきました」と、笑う。偶然や日常が生み出すあらゆる"可能性"をモノにするコツは、こうした柔軟さと身軽さにあるのだろう。
「僕は今のところ、トムのように人生を変えようと思ったことはないけれど、もし、ある時に人生を変える決心をしたとしても、その新しい決心や環境に十分適応できる人間だと思います。少なくとも、適応できると自分では信じていますね」

(取材・文:細井秀美 撮影:富永智子)
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