エキサイト 隠しておきたい経験や想いまで曲にすることは、ものすごく勇気がいることだと思います。アルバム『BREAK MY SILENCE』は自分でも禁じ手を破らないと、形になりえなかった作品ですか?
高橋優
勇気がいるという考えは、昨年の段階で通り過ぎていたと思うんです。『僕らの平成ロックンロール②』をリリースしたあたりから、こういうのをやるのは然るべきと思っていたので、今回の『BREAK MY SILENCE』を作るときには、もう迷いはなかったですね。これぐらいのほうが今の自分には適している、みたいな気持ちで制作に臨みました。
エキサイト 一番驚いたのが「CANDY」でした。これは自分の過去の事実ですか?
高橋優
そうです。
エキサイト 聴いているこっちが憎しみを覚えるぐらいのイジメですよ。こういう歌こそ、力強く前に進まないと形にできなかったのでは?
高橋優
世の中は不条理に溢れていると僕は思っていて。イジメに関しても、「(Where's)THE SILENT MAJORITY?」で歌ったような問題意識みたいなものも、自分の中でずっとあったし。とにかく今の世間や世界に対して問いかけたいこと、引っかかっていることだらけなんですね。だけど、それをどうすればいいんだって悩んでいるのとは、今は違う気がするんです。包み隠すことでもなく、鎧をまとうことでもなく、こわばって敵を作ろうとすることでもなく、とにかく一番正直な状態で曲を作りたかったし、レコーディングにも臨みたかった。
エキサイト でも辛い経験は、もうなかったことにしたくなるものじゃないですか。それを歌にするのは、あのときのイヤな気持ちをほじくり返すようなものだと思うんです。
高橋優
忘れたいことではなかったんです。だけど、恥ずかしかったし、イジメられたなんて弱々しいイメージがあるし、自分にそういう色が付いて友達に接してもらうのもイヤだし。自分の恥をさらすことにしかならないと思っていたんです、前までは。だけど今は、自分が経験した出来事に限って言えば、負の感情はなくなったんですよ。もちろんイヤな経験だったけど、イヤだったな、と普通に言えるようになって。友達とご飯食べながらでも話せるようになったし、曲に書こうとも思えるようになったんです。変わったのか成長したのか分からないけど、何かしら、前と違う自分になった気がしたんですね。だから書こうと思った。それが正直な意見です。“イジメよ、なくなれ”とかキレイ事まで僕はまだ歌おうと思わないけど、現状のテレビや新聞に載っているイジメ問題に対して、憤りを感じていることも確かです。
エキサイト 自分は強くなったという自覚も今はありますか?
高橋優
もちろん強くもなったと思うんですけど、環境が勝手に変わるってこともあるんですよ。今、学校でイジメられている子も、その学校は世界のほんのちっちゃな場所でしかなくて、イジメられた経験も忘れようと思えば忘れることもできると思うんです。もちろん負の感情はねちっこく残るし、やられたことについて自問自答も繰り返される。だけどイジメない人達にも、いくらでも出会えるんです。思いもよらないぐらい優しい人や良い人と。僕はそういう出会いも経験できた。それはなんでかっていうと、そういう人がただいただけなんです。そしてイジメる人もただいただけ。僕はいろんな人と巡り会っただけなんです。だから、今、イジメられている人も、生きてさえいれば、いくらでも巡り会えると思うんです。自分は身を持って経験できた人間だから、胸を張って言えるんですよ。死なないで良かったと。途中で諦めることは絶対に間違っている。生きてさえいれば、自分が思いもよらないぐらい幸せがやってくる。いつかそう言えたらいいなと思っているんですよ。この「CANDY」では、そこまでは言ってないですが、あの出来事、人間がそうする仕組みについて、自分の経験したことについても興味があって、そこに自分なりのスポットライトを当てたかったんです。
エキサイト なるほど。ともかく衝撃の1曲で、こんなイジメにあっていたとは知らない一面でした。
高橋優
はい。僕は音楽も一つの人間関係だと思っているので、僕の曲を聴いてくれる人に自分の心を開きたいんだと思うんです。普通でしたと強がって言いたいけど、あの経験も普通だったのかな、いや、話してみようってところがあるんです。あなたはどうだった?というのも聞きたいし。自分をさらけ出さないと、本当の人間関係は始まらないと思うんです。僕にとって音楽を奏でることが、自分にとって全てだし、人間関係を築いていくことでもあるし。そこで知らなかった一面を音楽で知ってもらえたのは、僕としては嬉しいし、まだあるよ、ぐらいの感じですよ(笑)。もっともっと話そうよって。
エキサイト 対して「スペアキー」は、ちょっと酷い男ですね(笑)。
高橋優
これは男女間のお話なので、半分以上はご想像にお任せします、と言うようにしているんです。でも間違いなくそういうことを言う自分や、そういう態度をとってしまう自分もいるんです。人前では出さないけど(笑)。この曲も、聴いてくれた人の感想を聞きたいって気持ちがあるんですよ。曲を聴いてからの余白も大いに残したと思います。歌った後、聴いてくれた人の顔を見るのが楽しみというか。昨日と今日の取材でも、いろいろな感想を聞けました。とくに女性からの感想がおもしろいんです。
エキサイト 同性だと、男にはこういう面もある、反省してます、という感じですが(笑)。
高橋優
あります、あります(笑)。でも女性ってすごいですよ。ほんとはそう言いたくないのに言っている、か弱い男の子の歌とか。もちろんサイテーな男の歌とか(笑)。あんまりここまで言う人もいないから、強い歌だとか。
エキサイト うやむやにされるよりはいい、という女性スタッフもいました。
高橋優
確かに、うやむやな関係って多いですよね。別れたけど、よく分からない期間があってとか、そういう話もよく聞くじゃないですか。その“よく分からない期間”って何だろうと思ったり(笑)。
エキサイト 答えを出すのが怖いんじゃないかと。
高橋優
ああ、結論をね。そういうのがすごく多いですよね。
エキサイト だから、今回の歌は聴いた側もいろんな意見で盛り上がるんですよ。身近なテーマだったり、誰もが心のどこかに持っている気持ちだったりして、グサッと来るんです。問いかけてくるんですよ。「蝉」も、自分ならどうする?って投げかけられました。
高橋優
一つは生と死ってことと、生きていくうえでのコンプレックスと呼ばれているもの。それが「蝉」のテーマになっているんです。コンプレックスを気にしている人は多いと思うんですよ。背が高いとか低いとか、何かしら自分の外見や内面にコンプレックスを抱えて生きているっていう。その半面、コンプレックスがあるにしろないにしろ、死ぬことには変わりはない。人生一度きりじゃないですか。その中でコンプレックスに悩みながら生きるのが正しいのかという疑問が、僕の中にあるんですね。コンプレックスをなくしていく旅が人生なんだろうか。でも、なぜコンプレックスを気にするんだろうか。コンプレックスがないほうが、人と円滑に接することができるんじゃないのかと思ったんです。他人から嫌われる気がして、自分のコンプレックスも嫌うんだと思うんです。だとすると、誰かと対峙することがテーマになっていく。人と円滑に付き合っていくためには、自分らしく生きていくことだと僕は思うんですね。とにかく自分というものをアピールすること。そのほうが整形手術に励んだり、コンプレックスを隠したりするよりも、近道になるんじゃないかと思ったんです。そこで蝉の話になるんですけど、蝉って人目を気にしてないじゃないですか。夏の風物詩として鳴き続けますよね。蝉という生き物には、何の迷いもないと思うんですよ。僕は蝉に学ぶところたくさんあると思ったんです。地上では一週間しか生きられないんですよ。一生懸命じゃないですか。一度きりの人生、人から嫌われないことを考えるより、充実させるほうを考えたほうがきっとおもしろい答えが出てくると思うんです。